今回は自作ゲームの販売方法に関する話題で、
を一通りまとめてみるという内容になっています。
個人的な話になってしまいますが、私は2022年に初めて「アリスとガトリング」というFPSゲームをSteamでリリースしました。
憧れのSteamで自作ゲームをリリースできたのはとても嬉しかったのですが、反面Steamでゲームをリリースするまでの道のりは本当に苦労の連続で
- そもそも、売れるか分からない状態で1万円支払わないとゲームを登録できない
- 初見だとワケの分からない手続き・作業が多い
- 問い合わせなどは全部英語でやり取りしないといけない
- Steam独自の謎ルールがある
といった様々な困難を乗り越える必要がありました。これらに関してはネット上の情報も少なく、もっと早く知っていればこんなに苦労しなくて済んだのに…と思いました。
そこでここでは、Steamでゲームをリリースしようと思っている皆さんが変に苦労しなくても済むように
- Steamでゲームをリリースするまでの流れ
- リリース作業の注意点
といった点について書いていきますね。
※以下、かなりの長文となっております。
Steamでゲームをリリースするまでの流れ
では早速ですがSteamでゲームをリリースするまでの流れを一通りまとめてみようと思います。主な手順は次のとおりです。
- Steamworksに開発者登録する
- ゲームのストアページを作成して審査してもらう
- ゲームのビルドを作成して審査してもらう
- リリースボタンを押してゲームをリリースする
手順1:Steamworksに開発者登録する
まず、Steamでゲームを販売するためには「Steamworks」というサイトに開発者として登録する必要があります。詳しい登録手順は下記のブログ様が丁寧にまとめてくださっているのでそちらも併せてご覧いただきたいのですが(※私も登録時にずいぶんお世話になりました)…
大まかにまとめると次の5ステップになります。
- 個人情報を入力する
- 「最初のゲーム1本分の登録料」を支払う
- 口座情報を登録する
- 税金関係の書類を作成する
- 身分証明書の画像を提出する
手順1-1:個人情報を入力する
手始めに氏名・住所・電話番号など色々な個人情報を英語で漏れなく入力します。正直これだけでも面倒くさいのですが、まだまだほんの序の口です。
手順1-2:「最初のゲーム1本分の登録料」を支払う
次に開発者登録するにあたって、「最初のゲーム1本分の登録料」を支払う必要があります。これはSteamworks自体の登録料ではなく、ゲームを1本リリースするためにSteamに預ける供託金みたいなものです(10万円程度の売り上げがあると戻ってくるそうです)。
この登録料の価格はおよそ11000円です(※注)。これは例えば500円の利益が見込めるゲーム(=販売価格800円程度)であれば22本売れないと赤字になるので、私みたいな無名のゲーム開発者の方にとってはかなり覚悟のいるお値段だといえます(※Steamだからそれくらい余裕で売れるって?甘いね…)。
なお支払いはSteamでゲームを購入するのと同じような手順でできます。
※注:Steamのページには「100ドル相当」と書いてあり、昨今の円安でもっとお金がかかるんじゃないかと思っていましたが、この費用に限ってはレートが正確に反映されているわけではなさそうです。ただし今後値上がりするかもしれませんので最新情報をご確認ください。
手順1-3:口座情報を登録する
お次は売り上げを振り込んでもらう銀行口座の情報を登録します。普通に口座情報を記入すればいいのかと思いきや、国際的なやり取りになるのでSWIFTコードを記入する必要があったりします(※SWIFTコードがない銀行もあるらしいのでご注意ください)。
あと意外な盲点なのですが、Steamはドル建てでしか支払ってくれないようなのでドルを扱える口座が必要です。この点はSteamworksの公式ドキュメントにも書いてあります。
Q. 自国の通貨で支払いを受け取れますか?
A. いいえ。 USD でのみお支払しています。 お使いの口座で USドルでの SWIFT 電信送金による支払いを受け付けることができる必要があります。
手順1-4:税金関係の書類を作成する
さて次が最難関の作業です。Steamはアメリカの会社なのでアメリカの税金関係の書類(W-8BEN)を作成する必要があります。
まあ書類を作るといっても質問に答えていけば最終的には自動で書類を作って送ってくれるのですが、これ質問がすんごい分かりづらい上にフォームも使いづらいので初心者の方にはかなり辛い作業になると思います。先ほどのブログ様の手順を一つ一つ確認しながら慎重に作業を行いましょう(※ボタンを押し間違えるとそれまでの記入内容が一撃で吹っ飛ぶ場合があります)。
手順1-5:身分証明書の画像を提出する
最後に、税金の書類を提出すると数日後に「身分証明書の画像を提出してね!」的な英語のメールが来るので、書類作成時に選んだ身分証明書(運転免許証かパスポート)をスキャンしてメールに添付し返信します。
なんか他の方の情報だと「身分証明書の翻訳を求められる場合がある」とのことでしたが、私の場合はそのままでも大丈夫でした。
これで確認が取れると晴れてSteamゲーム開発者の仲間入りです!開発者アカウントのダッシュボードにアクセスできるようになり、ゲームを登録できるようになります。
手順2:ゲームのストアページを作成し、審査してもらう
開発者登録が済んだら、1万円で購入したクレジットを引き換えてゲームの登録作業に入ります。まずはストアページを作る必要があります。
ストアページの作り方は、大雑把に言うとSteamworksのページの右側にチェックリストが出現するのでそれを一つ一つこなして全部できたら審査に出せるようになっています。
主なものを挙げると
- ゲームの基本情報や紹介文を入力する
- ゲームが成人向けかどうかを申告
- リリース日を決める
- 各種画像を用意する
といった感じですね。
こうやってサラッと書くと簡単そうに思えてきますが、このうちストア用画像の準備は本当に面倒くさいです。というのも必要な画像が15種類くらいあって規格もキッチリ決まっているので単純に作るのが大変だからです。画像編集が苦手な方にとってはかなりの苦行になると思いますが頑張りましょう…。
チェックリストが埋まると、ボタンが出現しストアページを審査に出すことができるようになります。審査に通ればストアページを公開できるようになり、あの「近日登場」状態になります。
手順3:ゲームのビルドを作成し、審査してもらう
お次はゲームのビルドファイルや予告編(=ゲームの紹介動画)を作ってアップロードし、審査してもらう必要があります(※審査はストアページの審査とはまた別です)。
こちらに関してもSteamworksのページ右側にチェックリストがあるので、それを一つ一つ丁寧に埋めていけば審査に出せるようになっています。
項目は色々あるのですが、主なものは次の2つです。
- 予告編のアップロード
- ビルドのアップロード
予告編のアップロード
予告編とは、ストアページを開くと勝手に再生されるあの動画のことです。
予告編に使う動画はなるべくゲームプレイの魅力が端的に伝わるものがよいとされています。動画制作はなかなか大変ですが頑張って作ってアップロードしましょう。動画の解像度やファイル形式などが予め指定されているので、Steamworksのページをよく読んでから作り始めることをお勧めします。
なおアップロード後は動画の変換処理が走るのですが、他の開発者も動画をアップロードしていると変換処理にかなり時間がかかることがあるようです(※どうやら順番待ちになるらしい)。なので動画をよく確認したうえで、時間に余裕をもってアップロードしたほうがいいと思います。
ビルドのアップロード
ゲームのビルド(=ゲームを実行するのに必要なファイル全般)をアップロードします。ファイルサイズが巨大なゲームの場合は専用のソフト使ってアップロードする必要があるのですが、2GB以下であればブラウザ上でアップロード作業を行うこともできます。
ちなみにビルドのアップロードページはかなり分かりにくい場所にあるのでどこからUPすればいいのか分からなくなってしまうかもしれません。アップロードは「Steamworks設定を編集」→「SteamPipe」タブ→「ビルド」と進んだページから行うことができます。
手順4:リリースボタンを押してようやくリリース!
無事ストアページとビルドの審査を通過し、さらに所定の待機日数が経過するとようやくゲームをリリースすることができるようになります。Steamworksのページにリリースボタンが出現し、これを押すとゲームの販売が開始されます。
リリース作業の注意点
さてリリースまでの手順は上記のとおりなのですが、手順通りにやっても一筋縄にはいかないのがSteamです。そこで私が引っかかった点や、早く知っておきたかった点を注意点としてまとめてみました。
- Steamworksの公式ドキュメントを熟読しておく
- ゲーム名は審査後の変更が面倒なので早く決めておく
- ゲームをSteamで売ると決めたらすぐにストアページを作ったほうがいい
- ゲームの国ごとの価格は必ず手動でチェックする
- どうしても分からないことがあったらサポートに問い合わせよう
- 審査をクリアするまでには時間がかかると思ったほうがいい
- 大型セールのタイミングでリリースするのは避ける
- 時差に注意する
- 多言語対応時はプレイヤーがメニューから言語を変更できる必要がある
- 「レビューするからキーをくれ」というメールは無視する
- きちんとゲームを宣伝する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
Steamworksの公式ドキュメントを熟読しておく
まず先ほどの手順の中でご紹介したブログ様のように、ネットでググるとSteamでのリリース作業について分かりやすく解説してくださっているサイトをいくつか見つけることができます。
ただしそれらは日付が古かったり、(このブログもそうですが)個人で書いたようなものだと情報の精度には限界がありますので、リリース作業をする際は必ずSteamworksの公式ドキュメントを熟読しながら作業を進めるようにしてください。
公式ドキュメントは分かりにくい書き方をしている部分も多いのですが、作業に必要なことや設定のコツ(例えばリリース日や価格設定など)も書いてあるので最善の結果を得るためには欠かすことはできません。外部の情報はあくまでも参考程度にとどめ、公式ドキュメントをしっかり読んで正確に作業をこなすようにしましょう。
ゲーム名は審査後の変更が面倒なので早く決めておく
次にゲーム名(つまりゲームのタイトル)についてなのですが、これはストアページの審査をクリアすると自分では変更できなくなってしまうので早い段階で決定してしまうのがベストです(※審査に出す前の確認も忘れずに!)。
「まだタイトルが仮だけどSteamに出そうかな?」というのはやめた方がいいと思います。一応、審査後でもサポートに問い合わせれば変更を受け付けてもらえるらしいのですが、数日かかるかもしれないし面倒だと思うので、ストアページを作るまでにはタイトルを決めておくとよいと思います。
ゲームをSteamで売ると決めたらすぐにストアページを作ったほうがいい
三つ目はSteamの謎ルールに関してです。実はSteamでゲームを販売するには
- Steamworksに登録してから30日
- ストアページを公開してから2週間
のうち、残りの待機時間が長い方の日数だけ待機する必要があります。つまりリリース作業が完了したからといってすぐにリリース!ということはできない仕組みになっているので、リリース日が決まっているのであれば少なくとも1カ月以上は余裕をもってリリース作業を行う必要があります。
あとついでに言うとストアページはゲームが完成していなくても公開できるのですが、早く公開するほどウィッシュリストに登録してもらえる期間が長くなって有利です(Steamでゲームを漁っているとたまにリリースの数年前からストアページを公開しているゲームがあるのはそういう理由があるからだと思われます)。
つまりSteamでゲームを売ると決めたらすぐにストアページを作り始めるのがベストだと思います。これはとても重要なのでぜひ覚えておいてください。
ゲームの国ごとの価格は必ず手動でチェックする
四つ目は売り手としては重要な価格設定に関する話です。Steamでは色々な国の通貨に対応しており、価格をドルで入力するとそれを自動的に他の通貨の価格に変換してくれる便利な機能があります。
…が、その機能は正確なレートを反映しているわけではなく、あくまでもSteamのオススメ価格になっており多くの通貨では(日本円に対して)かなり安く販売される設定になっています。つまりワンボタンで通貨ごとの価格を設定し、そのまま何もせずに販売すると国によっては激安でゲームが売られてしまうのです(※特にトルコとアルゼンチンで顕著です)。
したがって海外からの利益をきちんと回収したいのであれば、面倒ですが通貨一つ一つに対して提案された価格をきちんとチェックし、必要があれば修正することをおすすめします。
ちなみにレートをチェックするときは下記のサイトが使いやすくて便利です。

※追記:
最近、Steamが提案するオススメ価格において通貨間の極端な価格差が是正されるようになったみたいです。しかしそれでも自分でちゃんとチェックするに越したことはありません。

どうしても分からないことがあったらサポートに問い合わせる
次に五つ目は、どうしても分からないことがあったら素直にサポートに問い合わせたほうがいいということです。
Steamworksの設定画面は初見だと分かりづらく、細かい設定についてはググっても情報が出てこない場合があるので困ってしまうことも多いかと思います。なのでもし詰んでしまったら迷わずサポートに問い合わせてみましょう。かくいう私は分からないことだらけで何度も問い合わせをしたのですが、毎回親切に教えてもらえました。
ちなみに当然ですがサポートの担当者とは全部英語でやり取りする必要があるので、Google翻訳とかDeepLとかを活用しながら頑張って問い合わせてください。
審査をクリアするまでには時間がかかると思ったほうがいい
六つ目は審査に関する注意点で、審査をクリアするまでには時間がかかる場合があるのでかなり時間的な余裕を持った方がいいということです。
審査リクエストを出しても順番待ちがあってすぐには対応してもらえないですし(土日を挟む場合はなおさらです)、当然ながら審査に落ちたら再度やり直す必要もあるため十分な時間が必要となります。間違ってもリリース予定日の直前に審査に出すなんてことはしないようにしましょう。
大型セールのタイミングでリリースするのは避ける
七つ目はリリース日に関する注意点です。Steamでは季節に合わせて大規模なセールを行うことがあり、このタイミングでゲームを出すとほぼ確実に埋もれてしまいます。したがってリリース日を決める前にセール情報を調べておくのが無難でしょう。
セールの時期は大体決まっていて調べれば出てきますし、2カ月前くらいになるとSteamworksにも情報が出てくるのでそれを見て判断してください。
時差に注意する
八つ目はごく基本的なことなのですが、Steamはアメリカのサイトなのでリリース日を決めたり、サポートに問い合わせたりする場合などは時差に注意する必要があります。
時差を考慮しないとリリース日が日本とずれてしまう場合がありますし、サポートに連絡しても現地が夜間とか休日だとすぐに対応してもらえなかったりするので気をつけましょう。
多言語対応時はプレイヤーがメニューから言語を変更できる必要がある
九つ目として複数言語に対応したゲームの場合、設定などのメニューからプレイヤーが自分で言語を切り替えられるようにしておく必要があるということです。
私は最初、システム言語に応じて自動的にゲーム内言語が切り替わるようにしておいたのですが、その状態で審査に出したところ
- それだけだと不十分だよ
- システム言語によって自動的に言語が切り替わるのはいいけど、プレイヤーが自分でメニュー等から言語を切り替えられるようにしてね
と指摘されました。どうやら言語に関してはプレイヤーが自分で切り替えられるようにしないとダメなようです。
Steamにゲームを出すからには多言語対応を行うという方も多いと思いますが、この点は意外と見落としがちだと思うのでご注意ください。面倒でも言語設定メニューを作るようにしましょう。
「レビューするからキーをくれ」的なメールは無視する
十個目は安易にキーを配ってはいけないということです。ストアページを公開するとサポート用メールアドレスに
的なメールがどっさり届くようになります。
…が、そういうメールを送りつけてくるような輩はレビューをダシにして無料でゲームを手に入れようと企むゴロツキなので絶対にキーをあげてはいけません。仮にキーをあげたとしてもレビューなんてせずにそのままゲームだけパクっていくに決まっていますし、それどころかキーを転売される可能性もあります(※ググってみると「安易にキーを配って失敗した!」という体験談が結構出てきます)。なので私は全部無視しました。
初めてSteamにゲームを出すときは藁にもすがりたいという気持ちかもしれませんが、そういう弱みにつけこんでくる奴らに騙されないようにしましょう。
きちんとゲームを宣伝する
最後に11個目は、Steamでゲームをリリースする際にも忘れずにゲームを宣伝しましょう。ゲーム開発者の方のブログ・SNS等での発言を眺めていると、たまに
などと完全に舐めてかかっている人を見かけますが現実はそんなに甘くありません。確かにSteamは巨大な売り場でありゲームを色々なお客さんに見てもらえるチャンスはありますが、Steamには大量の競合ゲームがひしめいていますし、加えて一日に30本以上の新作ゲームがリリースされることもあるためプロモーションが不十分だとあっという間に他のゲームに埋もれてしまいます。
そこで最低限、プレスリリースを各メディアに送付してゲームの宣伝を手伝ってもらいましょう。プレスリリースの書き方・送り方・送るタイミングなどについては下記ページで詳しくご説明していますのでそちらもご覧ください。

おわりに
以上、Steamでゲームをリリースするまでの手順や注意点などを一通りまとめてみました。
Steamでゲームをリリースするのは大変で初心者の方にはとっつきにくい印象があると思いますが、やはり世界最大手のPCゲーム配信サイトで自作ゲームを販売できると自信につながるし、世界中の人に自作ゲームを届けられると思うと感慨深いものがあります。なのでPCゲーム開発者の方であればぜひ一度はSteamでのリリースに挑戦していただければと思います。
この記事がゲーム開発のお役に立てば幸いです。