今回は自作ゲームの翻訳に関する話題で
翻訳ツールやChatGPTをフル活用して自作ゲームの翻訳の質を高める方法
をご紹介するという内容になっております。
自作ゲームをSteamなどの国際的なプラットフォームで販売する場合、ゲーム内テキストの翻訳はほぼ必須ですよね。ただ特に個人開発だと予算の都合で翻訳をプロに頼むわけにもいかず自分で何とかしないといけないパターンは多いことでしょう。
しかしこのような場合に一番困るのが翻訳の質が悪くなってしまうことです。ストーリー性が薄いゲームなら機械翻訳でもまだ許せますが、RPGやノベルゲームなどストーリーが命のゲームにおいては翻訳が雑だとゲームがぶち壊しになってしまいます。したがってそのようなゲームの場合は何とかして翻訳の質を担保できるようにしたいものです。
そこでここでは、無料の翻訳ツールやChatGPTをフル活用して自作ゲームの翻訳の質を高めるための方法を具体的に解説していきますね。
単純な機械翻訳と今回のコツを使った翻訳の比較
まずはじめに、サンプルとして
- 単純に機械翻訳しただけの翻訳文
- 今回ご紹介するコツを使った翻訳文
の比較を掲載しようと思います。翻訳に使用する元の文章は次のような話し言葉の文章です。
魔王:
フハハハ、我ら魔族にとっては力こそが全てなのだ!弱き者は強き者に従う、それこそが節理だと思わんかね?
勇者:
それならお前は俺に従うことになるぜ。後悔するなよ、いざ勝負だ!
これを英文に翻訳してみましょう。
単純な機械翻訳
まずは翻訳ツールの「DeepL」で普通に英訳しただけの場合です。
The Demon King:
For us demon people, power is everything! The weak follow the strong, don’t you think that’s the way it should be?Brave man:
Then you will follow me. Don’t regret it, let’s play!
まあ極端に悪い翻訳ではないのですが、例えば
- 「魔族」が「demon people」になってしまっている(ここでは「demons」が妥当)
- 「勇者」が「Brave man」になってしまっている(一般的には「Hero」が妥当)
といった変な翻訳が見られます。また、決戦の前の緊迫感のあるセリフにもかかわらず全体的にカジュアルで軽い口調になってしまっています。
ちなみに比較としてGoogle翻訳のほうだと
Demon King:
Hahaha, for us demons, power is everything! The weak obey the strong, don’t you think that’s the truth?Hero:
In that case, you’ll have to obey me. Don’t regret it, let’s get started!
となり、この場合はDeepLよりも素直でもっとマシな翻訳になります。
今回のテクニックを使った場合の翻訳文
次に今回のテクニックを使った場合の翻訳文です。
Demon King:
“Hahaha, for us demons, power is everything! The weak must obey the strong. Don’t you agree that’s the law of nature?”Hero:
“Then you’ll have to obey me. Don’t regret it—let’s fight!”
かなりマシな英訳になりました。さすがに英語が堪能な人の翻訳には敵わないと思いますが、今回のテクニックを使うことで確実に機械翻訳の質を高めることができることがわかります。
自作ゲームの翻訳の質を高めるための基本的なコツまとめ
では前置きが少し長くなってしまいましたがここからが本題で、ゲーム向けの「翻訳の質を高めるためのコツ」をいくつかご紹介していきます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
DeepLとGoogle翻訳の翻訳文の質の違いを知っておく
まず一つ目のコツというかこれは基礎知識的な部分ですが、DeepLとGoogle翻訳の翻訳文の質の違いを知っておくと何かと便利です。
DeepLの翻訳文の特徴…意訳が多い
DeepLの翻訳文の特徴は意訳になっていることが多いという点です。DeepLは意訳が得意なので比較的自然な翻訳をしてくれます。その反面、意訳を頑張りすぎて素直な翻訳をしてくれない場面もしばしば見受けられます。
Google翻訳の翻訳文の特徴…素直な訳が多い
Google翻訳の翻訳文の特徴は素直な英訳になることが多いという点です。Google翻訳の場合は意訳というよりは直訳に近い英訳をする傾向があります。そのため話し言葉などはややぎこちない翻訳になってしまうことがありますが、その他の文章ではかえって分かりやすい訳になることもあります。
翻訳前の文章に主語を明記する
次に二つ目のコツは翻訳前の文章に主語を明記しておくことです。
日本語の文章は主語を省略したほうが自然になることが多いのですが、英語の場合は基本的に主語を省略できません。つまり主語のない日本語をそのまま英語にすると翻訳ツールが主語を勝手に補完することになり、結果として英訳したときに誤訳になってしまうことがよくあるのです。
例えば次のような日本語の文章を英訳する場合…
IQ200の私とマッチョな彼は妙に気が合うコンビだ。鉄の扉をこじ開けて部屋の中に入ると、そこに難解な古代文字が書かれているのを発見した。だがそれを解読するのはたやすいことだ。
次のように主語を明記してから機械翻訳した方が正確な訳になりやすいです。
IQ200の私とマッチョな彼は妙に気が合うコンビだ。彼が鉄の扉をこじ開けて部屋の中に入ると、私たちはそこに難解な古代文字が書かれているのを発見した。だが私ならそれを解読するのはたやすいことだ。
実際にDeepLで英訳してみましょう。
【主語が省略されたままの文】
Me, with an IQ of 200, and him, the macho one, are a strangely agreeable duo. We pried open the iron door and entered the room, where we found some arcane ancient writing. But deciphering them is a piece of cake.
【主語を明記した文】
Me, with an IQ of 200, and him, the macho one, are a strangely agreeable duo. When he pried open the iron door and entered the room, we discovered some arcane ancient writing on it. But it’s easy for me to decipher them.
上記の例文の場合は主語が省略されていてもそこまでひどい翻訳にはなっていません。しかし主語を明記した文章を翻訳したほうが「誰がそれをやっているのか」が明確になっていて分かりやすいです。
文章によっては、主語を省略すると動作の主が本来の文章とは別人になっちゃうことがあるので注意してください。面倒でも主語を明記したほうが安心です。
なるべく簡単な文章にしてから翻訳する
三つ目のコツは翻訳前の文章をなるべく簡単な文にしてから翻訳することです。
例えば次のような小難しい文章を機械翻訳にかける場合は…
古の研究施設の最奥部に鎮座する謎めいた機械を起動させるためには、部屋全体に散在する複雑怪奇な暗号を解読することが求められる。その手がかりとなるのは、壁面に彫刻された古代の象形文字と、机上に無造作に置かれた奇怪な機構――これら全てが解への糸口として絡み合っていた。
これを下記のようになるべく簡単な文章にしてから翻訳したほうがより正確な結果を得ることができます。
古い研究所の奥にある機械を動かすには、部屋中にある難しい謎を解く必要がある。壁の文字や机の上の奇妙な装置がそのヒントだった。
実際にDeepLで英訳してみましょう。
【難しい文章のまま翻訳した場合】
In order to activate the mysterious machine that sits in the innermost part of the ancient research facility, it is necessary to decipher the complex and bizarre codes scattered throughout the room. The clues are ancient hieroglyphics carved into the walls and bizarre mechanisms placed haphazardly on the desk – all intertwined as clues to the solution.
【簡単にした文章を翻訳した場合】
In order to operate the machine at the back of the old laboratory, difficult riddles had to be solved throughout the room. The writing on the walls and the strange device on the desk were clues to this.
難しい文章のまま翻訳した文は(英語初心者の私からしたら)見たこともないような単語がちらほら見受けられます。難しい文章のまま英訳するとそれが正確なのかを確かめるのが難しくなりますし、そのままで英語圏の人たちに通じるのかがわからないので翻訳の質を判断しづらくなるという問題にぶち当たります。
一方で簡単な文章にしてから翻訳すればチェックが容易になります。元の文の雰囲気は多少削がれるかもしれませんが、そもそも正確に伝わらなければ雰囲気も何もないので難しい文章は簡略化してから翻訳した方がいいでしょう。
なお難しい文章を簡単にするのが苦手な方や面倒に感じる方は、ChatGPTなどの対話型AIに「この文章をわかりやすくして」とお願いすれば簡略化を手伝ってもらえるので便利です。
一文が長い文章を翻訳するときは短い文章に分割する
四つ目のコツは一文が長い文章を翻訳するときは短く分割することです。
例えば次の例文をご覧ください。
「この村の北にある霧深い湖には永遠の若さをもたらす秘宝が沈んでいる」と語る古い伝説を知ったあなたは半信半疑に思いながらもその湖へと旅立つことを決めた。湖の周囲には不気味な静寂が漂い、霧の中では数メートル先すら見えず、足を踏み入れるたびに水面が不穏に揺れて小さな波紋が闇の奥へ広がっていく様子にあなたは思わず身震いした。
一文がめちゃくちゃ長いですね!これをこのまま機械翻訳にかけると不正確でしかも分かりづらい文になりがちです。そこでこういう場合は下記のように文章を分割しましょう。
「この村の北にある霧深い湖には、永遠の若さをもたらす秘宝が沈んでいる」。古い伝説を知ったあなたは、半信半疑に思いながらもその湖へ旅立つことを決めた。
湖の周囲は不気味な静寂に包まれていた。霧の中では、数メートル先すら見えない。足を踏み入れるたびに水面が不穏に揺れて小さな波紋となり、闇の奥へ広がっていく。その光景に、あなたは思わず身震いした。
実際にDeepLで翻訳してみると次のようになります。
【長いままの文章を英訳した場合】
You learn of an old legend that tells of a misty lake to the north of the village, where a hidden treasure that brings eternal youth lies. An eerie silence surrounded the lake, and you couldn’t even see a few metres ahead in the mist, and you shivered involuntarily as the surface of the water shook uneasily and small ripples spread deep into the darkness with every step you took.
【分割した文章を翻訳した場合】
‘In a misty lake to the north of this village lies a hidden treasure that will give you eternal youth.’ You learn of the old legend and decide to set off for the lake, although you are half-convinced.
The lake was surrounded by an eerie silence. In the mist, you cannot even see a few metres ahead. Every time you set foot on it, the surface of the water shook uneasily, forming small ripples that spread deep into the darkness. The sight made you shiver involuntarily.
長いまま翻訳したほうは一部の表現が意訳によって抜けてしまっている部分がありますし、特に後半は長すぎて何を言っているのか理解しづらい文章になっています。一方で短く分割してから翻訳したほうは一文が短いので圧倒的に理解しやすいです。
DeepL Writeを使って翻訳文を校正する
五つ目のコツはDeepL Writeを使って翻訳文を校正することです。
DeepLには、翻訳した文章を校正する「DeepL Write」という機能があります。この機能を使うと1ボタンで手軽に翻訳文を改善することができて便利です。
ただし文章によってはDeepL Writeでは十分直しきれない場合もあります。その場合は↓のコツを使ってみてください。
ChatGPTに翻訳文を添削してもらう
最後に六つ目にして一番おすすめの方法はChatGPTに翻訳文を添削してもらうことです。
ChatGPTは翻訳も得意で文章を投げるとかなり自然な翻訳をしてくれます。また、訳が自然なだけではなくChatGPTを翻訳に使うメリットとして次のようなものが挙げられます。
どちらもDeepLやGoogle翻訳では不可能なことであり、現時点では質の高い翻訳が欲しいならChatGPTを使うのが一番です。
ただし無料版のChatGPTだと高性能なモデルにキツめの使用制限がかかっているためガンガン翻訳してもらうわけにもいきません。調子に乗って長文を翻訳してもらっているとすぐに制限がかかってしまいしばらくの間はしょぼい旧モデルを使わざるを得なくなります。
そこでChatGPTは機械翻訳の添削に使うのがいいと思います。翻訳自体はDeepLやGoogle翻訳で行い、どうしても翻訳に納得いかない場合や訳が適切かどうか不安な場合はChatGPTに聞けばいいのです。
ちなみにChatGPTに翻訳文を添削してもらう場合は下記のようなプロンプトで添削をお願いするといいでしょう。
英訳を添削してください。下記に翻訳前の日本語の文章とその英訳を掲載しますので、英訳をなるべく自然な英文になるように改善してください。また、なぜその部分を直したのかという理由も教えてください。
【翻訳前の文章】
(ここに翻訳前の文章を書く)
【翻訳した英文】
(ここに翻訳した英文を書く)
こうすると改善の理由を詳しく教えてもらえます。試しにコツ4の翻訳文を添削してもらったところ、次のようになりました。
“In a misty lake to the north of this village, a hidden treasure is said to grant eternal youth.” Upon learning of this ancient legend, you decide to journey to the lake, though filled with doubt.
The lake is shrouded in an eerie silence. Within the mist, visibility extends no further than a few meters. Each step you take disturbs the water’s surface, sending uneasy ripples that spread into the dark abyss. The unsettling scene makes you shudder involuntarily.
文章の雰囲気などを考慮した自然な英文になりました。また、なぜそのような改善をしたのか?という理由つきなので安心感があります。
…もちろんChatGPTも万能ではないですから鵜呑みは厳禁ですが、単純に機械翻訳するだけと比べるとより高品質な英訳を得られるので活用しない手はないでしょう。
おわりに
以上、翻訳ツールやAIを活用して自作ゲームの翻訳の質を高める方法をご紹介しました。ぜひ上記の内容を参考にしていただき、より高品質な翻訳文をゲットしていただければと思います。
この記事がゲーム開発のお役に立てば幸いです。