今回は何かと物議を醸しがちなAIと著作権の関係についての話題で、タイトルの通り
という内容になっています。
私が普段使っている画像生成AIを含めた生成AIは便利な一方で様々な問題が指摘されています。特にAIと著作権との関係は以前から物議を醸しており、ネット上ではかなり荒れた話題としてトレンドに上がってくることもしばしばです。
この原因の一つとしては法的な整備が間に合っておらずルールや判断基準が曖昧なことが挙げられると思います。やはりその辺がハッキリしないとやっていいこと・悪いことの線引きが難しく、なんだかスッキリしないですよね。
ただそのような中で文化庁が「AIと著作権」と題したセミナーを開催するという情報が耳に入ったので、AIによる学習や生成物に対する著作権的な扱いについて理解を深めるためにこのセミナーを受講してみることにしました。ここではその内容を元に
をまとめてみようと思います。
以下はセミナーの内容を元に私が理解した点について書いています。私は法律の専門家でも何でもない一般人ですので解釈の正しさについては保証できかねます。あくまでも参考程度になさってください。
セミナーのアーカイブ動画が公開されました。誰でも閲覧できるのでぜひご覧ください。
今回受講した「AIと著作権」セミナーの概要
はじめに今回私が受講したセミナーの概要を簡単に書いておきます。
- 開催日:2023年6月19日
- 主催:文化庁
- チラシ:PDF(※リンク先は文化庁のページ)
大まかな内容は次のとおりでした。
- 第一部:著作権制度の概要
AIと著作権の関係を理解する上で必要な著作権制度についての解説。 - 第二部:AIと著作権
AIの学習およびAIによる生成物は著作権法上どのように取り扱われるのか、権利侵害になる場合はどのような場合なのかなど、AIと著作権の関係についての解説。
AIユーザーが著作権について知っておくべき3つのこと
ではここから著作権についてAIユーザーが知っておくべきことをまとめていきます。セミナーで取り上げられた内容の中で、AIユーザーとして特に知っておいた方がいいなと思った点は次の3つです。
- AIと著作権の関係を考える上でのポイント
- AI生成物をどのように使うと著作権侵害になるか?
- AI生成物が「著作物」に該当するかどうか
それぞれ詳しくご紹介しますね。
AIと著作権の関係を考える上でのポイント:AI開発・学習と生成・利用は分けて考えるべきである
まず前提知識的な部分として、セミナーではAIと著作権の関係を考える上でのポイントが紹介されていました。そのポイントとはスライドから引用させて頂くと
「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」では、行われている著作物の利用行為が異なり、関係する著作憲法の条文も異なります。そのため、両者は分けて考える必要があります。
またAI生成物(AIが生成したコンテンツ)が「著作物」に当たるか、という点も、別の問題として分けて考える必要があります。
とのこと。
ネット上の議論だとこの辺がごちゃ混ぜになってしまっていてなかなか話がかみ合わないことになっていると思うのですが、まずはこれらをきちんと分けて考えることが重要だそうです。
AI生成物をどのように使うと著作権侵害になるか?
さてポイントを押さえて頂いたところで私を含むAIユーザーの皆さんが気になるであろう点についてまとめていきます。セミナーではAI開発・学習段階と、生成・利用段階のそれぞれについて言及されていたのですが、ここではAIユーザーとして関係が深い後者について取り上げます。
まずはAIによる生成物をどのように使うと著作権侵害になってしまうのか?という点です。
前提:AIだろうが人力だろうが、著作権侵害かどうかの判断対象になる点は変わらない
はじめに大前提です。セミナーのスライドから引用させて頂くと
AIを利用して画像等を生成した場合でも、著作権侵害となるか否かは、人がAIを利用せず絵を描いた場合などの、通常の場合と同様に判断されます。
とのこと。つまり例えば
というわけです。既に皆さんお分かりかと思いますがその点は勘違いしないようにしましょう。
そもそも「著作権侵害」とは?どのように判断されるのかについて
ではどのようなケースが著作権侵害になるか?という点についてまとめる前に、そもそもの話「著作権侵害」とはどのように判断されるのかについて簡単に書いておきます。基本的には
した場合に著作権侵害になるのですが、具体的に判断基準を書くと次の2つの条件を両方とも満たすと判断された場合に著作権侵害となるそうです。
- 類似性があること。
類似性とは、後発作品が既存の著作物と全く同じか類似していること - 依拠性があること。
依拠性とは、後発作品が既存の著作物に依拠して複製等されたこと
類似性の判断基準
一つ目の類似性を満たすと判断される場合のポイントは、後発作品の表現が
です。
この「創作性のある表現」というのがポイントで、例えば表現ではないアイデアや事実は著作権の保護の対象とはならないのでその点が似ていても類似性があるとは判断されません。また、表現が似ていたとしてもそれが創作性のない「ごくありふれた表現」の場合、類似性があるとは判断されないことになります。
依拠性の判断基準
次に二つ目の依拠性を満たすと判断される場合のポイントは下記のとおりです。
- 後発作品の作者が既存の著作物を知っていること
- 後発作品と既存の著作物が顕著に類似していること(=同一性があること)
- 後発作品を独自に創作したと合理的に説明できないこと
つまり明らかに既存の著作物を知っていて真似したよね、ということが証明できれば依拠性があると判断されるようです。
ただ後述しますが、AIによる生成物の場合は依拠性の有無をどう判断するかはなかなか難しく、意見が分かれているようでこの点はセミナーの開催時点では検討段階にあるようです。
AI生成物の利用によって著作権侵害になるケース
以上を踏まえて、AI生成物の利用によって著作権侵害になるケースについてまとめてみます。…といっても結論から言うと
そうです。つまり分かりやすくいえば
- 類似性:
AI製だろうが人間製だろうが、「創作性のある表現」が既存作品に似ていれば類似性があると判断される。この点は既にハッキリしている。 - 依拠性:
AIによる生成物においてどのような場合に依拠性があるか?については色々な意見があり、まだまとまっていない。
というわけです。なので現時点では著作権侵害にあたるかどうかは最終的には裁判所で個別に判断されるべきもののようで、「こうしたら確実に著作権侵害!」っていう具体的な例はセミナーでは取り上げられませんでした。
ただし次のような場合には依拠性があるのではないか?という検討段階の例が示されていました(※文化庁としては、下記の行為は今のところグレーゾーンだと認識していると思われます)。
- AI利用者が既存の著作物を認識していて、AIにそれと類似したものを生成させた場合
- 画像生成AIの「img2img」機能に既存の著作物を入力した場合
この辺は今後の動向を注視していきたいですね。
逆に著作権侵害にはならないケース
一方で、逆に著作権侵害にならないケースははっきりしているようです。具体的には次のとおり。
- 権利制限規定に該当する場合。例えば、生成物を完全に個人的な利用に留めるなど
- 生成物に類似性および依拠性が認められない場合
- 生成物に類似性および依拠性があっても、既存の著作権者から許諾を得ている場合
- 生成物に大幅に手を加えて全く異なる著作物にした場合
セミナーではAI生成物を利用する場合は次のように使うことを推奨していました。
- 生成物をそのまま利用しない
- そのまま利用する場合は著作権者から許諾を受ける
- 生成物に大幅に手を加えて全く別の著作物にする
AI生成物が「著作物」に該当するかどうかについて
さて最後に、セミナーではAI生成物が「著作物」に該当するか?という点にも言及していました。この点について簡単にまとめると次のように判断されるそうです。
- AIが自律的に生成した場合(例えば、人は指示を与えず生成ボタンを押しただけ等):
著作物には該当しない。なぜなら思想または感情を創作的に表現したものではないから。 - 人が思想感情を創作的に表現するための道具としてAIを利用した場合:
著作物に該当しAI利用者が著作者となる。
つまり場合によってはAIによる生成物であっても著作物に該当するというわけです。
よく反AI派の人たちが「AIによる生成物には著作権は発生しない!」と主張している気がしますが、実際は場合によるということがわかります。
おわりに
以上、文化庁主催の「AIと著作権」セミナーを受講してその内容を私なりにまとめてみました。
こうして専門家の方のお話を伺ってみると、何がOKで何が著作権侵害に当たるのか?といった点や、いまどんなことが検討段階にあるのか、といったことが分かって理解が深まった気がします。とはいえまだまだハッキリしないグレーゾーンな部分は残っているので、今後その辺の議論が進んでしっかりとしたルールが作られることを期待したいですね。
この記事が何かしら参考になれば幸いです。